奈良県と大阪府の県境、大和川沿いにある「亀の瀬」。
ここは、昔から大規模な地すべりが繰り返されてきた場所で、現在も国による大規模な地すべり対策が続けられています。
地すべりとは、いったいどんなものなのか?
実際に現地へ行って、その対策について見てきました。
今回は、「亀の瀬地すべり歴史資料室」で予約して参加した、亀の瀬のガイドツアーで、地すべり対策の現場を実際に歩いてきました。
地質や土木に詳しいわけではありませんが、素人目線だからこそ感じたところを中心に紹介したいと思います。

亀の瀬地すべり歴史資料室

「亀の瀬地すべり歴史資料室」には、ゴールデンウィークにも訪れました。
そのときに、ガイドツアーに参加するには予約が必要だと知り、スタッフの方に予約ページを教えてもらいました。予約なしでも、亀の瀬の歴史を知ることができる展示があります。
3つの建物に分かれて、地すべりの仕組みや対策方法、亀の瀬の歴史などが紹介されているので、まずはここを見て回るだけでも、亀の瀬についてかなり知ることができます。
そして、お盆期間中に再び奈良へ来る予定ができたので、予約ページを確認。
すると、お盆休み期間中にもかかわらず、90分の「亀の瀬ロングツアー」に予約することができました。
ガイドツアーの予約
このツアーでは、地すべりの仕組みを聞くだけではありません。
実際に地下の排水トンネルへ入ったり、地層を見たり、鉄道の歴史について聞いたり、最後には明治時代のトンネルまで見学できます。
ツアーは現在のところ無料とのことですが、いずれ有料化される予定だそうです。また、かなり人気があるようで、予約もすぐに埋まってしまいます。
予約受付は、毎月1日と15日の午前9時30分から。土日祝日に参加したい場合は、受付開始日に予約を入れるのがよさそうです。
亀の瀬ガイドツアー
まずは亀の瀬の地すべりについて知る
ツアーでは、まず亀の瀬で起きている「地すべり」について説明を受けます。
ところで、「地すべり」と「崖崩れ」の違いって知っていますか?
地すべりは、地層や地下水などの影響で、広い範囲の土塊がゆっくりと動いていく現象。一方、崖崩れは、雨などをきっかけに斜面が一気に崩れ落ちる現象です。

地すべりは、急な斜面だけで起こるわけではありません。亀の瀬では、勾配10%程度、角度にすると約6度という、かなり緩やかな斜面でも地すべりが起きています。
そして、もし地すべりが大きく進んで大和川を塞いでしまえば、土砂がダムのように川をせき止めることになります。
そうなると、奈良側では水位が上昇して浸水し、大阪側でも、せき止められた水や土砂によって大きな洪水被害が起こる可能性があります。
だからこそ、亀の瀬では半世紀以上にわたって、大規模な地すべり対策が続けられているわけです。
亀の瀬では、どんな対策が行われている?
では、実際にどんな対策が行われているのでしょうか。
簡単に言えば、「地下水を抜く」「杭で地すべりを止める」という対策です。
地すべりの原因となる地下水を排水するため、地下には排水トンネルや集水井戸が張り巡らされ、その延長はなんと約150kmにもなるそうです。
さらに、直径約6m、深さ約100mにもなる巨大な杭を何十本も地中に打ち込み、動こうとする地すべり土塊をブロックしています。

こうして地下水を抜きながら、地すべりそのものを物理的に食い止めているわけです。
これだけ大規模な工事となれば、当然、費用も莫大です。
亀の瀬の地すべり対策の費用対効果は?
亀の瀬の地すべり対策には、これまで約945億円もの事業費が投じられているそうです。
ざっくり言えば、約1,000億円だそう。数字だけ聞くと「1,000億円??」と思ってしまいます。
でも、もし大規模な地すべりによって大和川が塞き止められれば、上流側では水がせき止められ、奈良側で浸水被害が発生する可能性があります。
さらに、そのせき止めが決壊すれば、下流の大阪平野にも大きな被害が及ぶおそれがあります。
想定される被害額は、数兆円規模。

そう考えると、地中に巨大な杭を打ち、地下水を抜き、目立たないところで地すべりを食い止め続けるこの工事は、まさに「被害を未然に防ぐための投資」なんですね。
普段、私たちが何気なく通り過ぎている場所で、こうした巨大な工事が何十年も続いている。
そう考えると、亀の瀬の景色が少し違って見えてきます。
地下に入ってみると、まるで天然のクーラー
ということで、説明を聞いたあとは、いよいよ山の中に掘られた排水トンネルです。

ツアー参加者には、懐中電灯を手渡されて、各自前方を照らしながらスタートです。
外は猛暑日でかなり暑かったのですが、トンネルの中に入った瞬間、まぁ涼しい。
まさに天然のクーラーです。トンネルの壁面からは、あちらこちらで地下水がボタボタと流れ落ちていて、通路の真ん中には冷たい地下水が流れていて、より一層涼しく感じます。

実際の地層を触ってみる
トンネルの中では、実際の地すべり面のち地層に触れることができるように、トンネルのコンクリートに窓が設けられています。

なるほど、確かに上の面は、水を含んでいるが、下の粘土層は乾いてる。まさに、地層と地層の間を境に、土塊が面ごと滑っていくのだと実感できます。
普段は見ることのできない「地面の下」が、こうして目の前に現れるのは、なかなか面白い体験です。

巨大な集水井から水が降ってくる
さらに進んでいくと、今度は巨大な集水井へ。地下の中にポッカリと空いた大きな穴は、常に雨が振っている感じ。この日までしばらく雨は降っていなかったのだそうですが、耐えることなく降ってくる水の量に驚かされます。

これだけの地下水が山の中にあるのかと思うと、地すべり対策で「地下水を抜く」ことの重要性が、少し分かったような気がします。
地上に出ると、今度は鉄道の歴史
トンネルから出ると、今度は日差しが暑い。日傘必須!。
トンネルから少し下っていくと、大和川と国道25号、そして関西本線が見えてきます。
亀の瀬には、地すべりだけではなく、鉄道の歴史も残っています。昭和7年、この場所で大規模な地すべりが発生し、鉄道も大きな被害を受けました。
線路が通れなくなってしまったため、両側に仮駅を設け、亀の瀬の地すべり区間約2kmを歩いて移動していたそうです。

突貫工事による復旧
当時の関西本線は、伊勢への参拝客を運ぶ重要な鉄道路線。特に初詣シーズンの輸送に間に合わせるため、なんとわずか半年で、対岸へ迂回する新しい線路を造ったそうです。
まさに突貫工事。そして、そのとき造られた線路や橋梁が、今も現役で残っています。
第四大和川橋梁
その突貫工事の跡がよく分かるのが、関西本線の「第四大和川橋梁」です。
橋好きの私としても、これはテンションが上がる。
トラス橋の上に、普通の鉄橋が載っている、変な構造。鉄道ファンの間でも有名な橋だそうです。

第四大和川橋梁
もちろん、こんな変わった構造にも理由があるそうです。
地すべりによって元の線路が使えなくなったため、急いで別ルートを造る必要あって。しかも、新しい線路は大和川を斜めに横断する必要があり、さらに線路の高さを合わせる必要もあった。
そこでトラス橋で橋桁を支えることになり、結果として、この特徴的な二段構造になったのだそうです。
第五大和川橋梁
もう一つ気になるのが、亀の瀬の上流側、奈良側にある「第五大和川橋梁」。
こちらも、アーチ型のトラス橋と通常のトラス橋が連続する、かなり変わった構造です。こちらはツアー終了後に「龍田古道・亀の瀬ビジターセンター」へ立ち寄った際に見ることができました。
どちらかというと、私的にはこっちのほうがなん?ってなりました。だって、明らかに違う構造の橋をつなげるって普通に考えておかしいですよね?ビジターセンターのガイドさんに聞いてみました。
「おそらく突貫工事だったので、どこか別の場所から中古のトラスを移設してきたのではないか」とのこと。なるほど。なるほど。よほど急いで復旧工事を進めたんだろう。橋を見ているだけでも、当時の緊迫した状況がなんとなく伝わってきます。

そしてツアー最大の見どころ「旧大阪鉄道 亀瀬隧道」
そして、今回のツアーで楽しみにしていたのが、「旧大阪鉄道 亀瀬隧道」。
明治時代に造られた、レンガ造りの鉄道トンネルです。

このトンネルは、昭和7年の大規模な地すべりによって埋まってしまい、そのまま忘れ去られていたそうです。ところが、平成20年(2008年)の地すべり対策工事中に、ほぼ原形を保った状態で発見されましたとのこと。
まさに「幻のトンネル」です。

実際に中へ入ってみると、明治時代のレンガがそのまま残っています。なんというか、ここだけ時間が止まっているような感じ。
しかし、線路や枕木などは残ってなく、当時のものはすべて撤去されたようで、こうした資材を持ち出していることからも、当時は鉄などの資材が今よりずっと貴重だったことがうかがえます。

イギリス積みで積まれたレンガがいかにも明治の遺構らしくて見る価値十分です。
トンネルの中で見るプロジェクションマッピング
そして現在では、安全対策が施され、ツアーに参加するとトンネルの中に入れるようになっています。
このツアーでは、この「幻のトンネル」を舞台にしたプロジェクションマッピングまで楽しむことができます。
暗いレンガ造りのトンネルそのものをスクリーンにして映像が映し出されるので、とても幻想的。

明治時代の遺構と現代の映像技術が融合した、なんとも不思議な空間です。
今回のツアーでは2本のストーリーが上映されましたが、どちらも結構な長さがあり、見応えも十分。
地すべりの歴史や鉄道の歴史を、こうした映像を使って分かりやすく見せてもらえるので、子どもでも楽しみながら学べそうです。

約90分のツアーは、ここで終了。
奈良側の龍田古道ビジターセンターへ

その後、ツアー中にガイドさんに教えてもらった奈良県側の「龍田古道・亀の瀬ビジターセンター」にも行ってみました。
大阪側の「亀の瀬地すべり歴史資料室」から、車で10分ほど。
実は、このビジターセンターが建っている場所は、昭和7年の地すべりで鉄道が分断された際に設置された、奈良側の仮乗降場「亀ノ瀬東口」跡地なのだそうです。
つまり当時は、列車で亀の瀬を通り抜けることができなかったため、大阪側の仮駅で列車を降り、地すべり区間は龍田古道を歩いて移動。
そして、この場所から再び列車に乗って奈良方面へ向かっていたというわけです。
大阪側は土木技術的な紹介が中心なのに対し、こちらの資料室は、どちらかと言うと、龍田古道に関する歴史的文化的な展示が多い印象でした。
亀の瀬名物?「亀の甲羅」
ビジターセンターの展示はコンパクトですが、ボランティアの方が歴史や世間話など、いろいろと面白い話を聞かせてもらえました。
そして「亀の甲羅」という飲み物が何気なく、販売されている。
暑くて喉も乾いていたので、「亀の甲羅って何ですか(笑)」と聞きながら、思わず購入。
亀の甲羅(亀のコーラ)。

なるほど、ダジャレです(笑)。色は緑色で、なるほど亀の甲羅の色というわけですね。
見た目はメロンソーダのようですが、飲んでみると、メロンソーダとコーラを混ぜたような味。もちろん美味しい。
そして、ここでは王寺町のマンホールカードもいただきました。亀の瀬コーラを飲みながら、いろいろと面白い話を聞かせてもらって、とてもいい時間を過ごせました。


実は今も動いている山
そして、もうひとつ印象に残ったのが、奈良側のビジターセンターの裏山について聞いた話。最近になって、ここも地すべりで動いていることが分かったそうです。
現在は杭による対策が行われているとのこと。大阪側では巨大な排水トンネルや集水井など、大規模な水抜き対策が行われています。
こちら側も、今も動いている山を相手に対策が続いているというわけですね。
まとめ
今回は、亀の瀬の地すべり対策を見学できるツアーに参加してきました。
地すべりの仕組みから、地下水を抜く排水トンネル、巨大な集水井、地中深くに打ち込まれた杭など、普段は見ることのできない場所を実際に見学でき、とても興味深いツアーでした。
さらに、地すべりによって大きな被害を受けた鉄道の歴史や、地中から発見された明治時代の「旧亀ノ瀬トンネル」まで見られるので、地すべりに詳しくない人でも十分楽しめる内容だと思います。
約90分とちょうどいいボリュームで、歴史好き、鉄道好きはもちろん、ちょっと変わった社会科見学をしてみたい人にもおすすめです。
親子で参加しても、楽しみながらいろいろなことを学べると思います。
亀の瀬を通る機会があれば、ぜひ一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
それでは~。

